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相転移

相転移現象は、液体の固化、気化や磁性体の常磁性から強磁性への 転移など、系の温度や外場などを変化させた時に 状態が大きく変化する現象である。 より正確には、相転移現象は、系を特徴づける自由エネルギー などの熱力学関数が、非解析的となる点として定義される。

Ising モデルについて、高温の場合と低温の場合に、 それぞれどのような状態(相)が実現されそうか、 考えてみる。 外場$H$はゼロとする。 まず低温($T\simeq$ 0)では、 分配関数 (3)は、 エネルギー最低の配位が支配的な寄与をする。 Hamiltonian (1)が最小になるのは、 全てのスピンが上向き、あるいは下向きに揃った状態である。 このような状態では、スピンの磁場がお互いに協力しあって、 自発磁場を生じる。 このような現象を協力現象と呼ぶ。 一方、高温($T\gg 0$)では、どのような配位についても Boltzmann 因子が1に近くなり、分配関数に同じように寄与する。 このため、高温では乱雑なスピンの状態が実現されていると 考えられる。 熱力学の言葉で言うと、エントロピーが支配的であることを意味する。

ある温度において、なんらかの急激な系の変化によって、 これらの一方の状態から他方の状態に移るような現象が起こることが 予想される。 実際には、必ずしも熱力学関数が非解析的となるような変化 (相転移の定義)が起こる場合だけではない。 例えば液体から気体へは、相転移ではなく、緩やかな変化に よって移るような場合が、ある温度、圧力の領域では存在する。 系がどのように転移するかは、その系を記述するHamiltonian の 性質によって決まる。

分配関数は Boltzmann因子の和であり、Hamiltonian は 正則なので、$\mbox{Tr}$ 操作の各項は解析的な関数である。 従って、分配関数も解析的であり、非解析的なふるまいである 相転移現象は起こり得ないように思われる。 これは有限系では正しいが、無限系では必ずしも成り立たず、 体積無限大の極限(熱力学的極限)を取った場合において、 相転移現象が表れる。 ただし、ゼロ温度の場合には、レベル交差という現象を 通して相転移が起こり得、この場合は一次相転移となる。

相転移の種類について、よく用いられるのが、Ehrenfest による 分類である。 これは、自由エネルギーの$n$次微分が不連続の場合に、 この相転移を$n$次の相転移と呼ぶものである。 一次相転移では、相転移点において自由エネルギーは連続だが、 その一次微分、即ち傾きが不連続に変化する。 潜熱を伴う相転移はこの一次相転移である。

一般に臨界現象、あるいは二次相転移と呼ばれるのは、 自由エネルギーの一次微分が連続な場合の相転移であるが、 Ehrenfest による分類は正確には正しくない。 これは、二次微分に対応する比熱や磁化率などの量(これらは 揺らぎに関係する)が、実際には相転移点で(不連続ではなく) 発散する場合があるからである。 このため、連続的相転移と呼ばれることもある。



Hideo Matsufuru 2006-06-16