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分配関数と熱力学量

相互作用がハミルトニアン $H$ で記述される系があるとする。 自由度を一般に $\phi_i$ (i=1,2,...), 系のパラメターを $K_a$ (a=1,2,...)とする。 例えば、強磁性体の場合、$\phi$としては各格子点上のスピン自由度、 Kはスピン間の結合定数や、外からかけた磁場 $H$ などを表す。

\begin{displaymath}
H[\phi\, ; K] = - \sum_{i,j} J_{ij} \phi_i \cdot \phi_j
- H \sum_i \phi_i
\end{displaymath} (1)

$J_{ij}$は格子点$i$$j$のスピン間の結合定数である。

系の熱力学的性質は、統計力学によって記述される。 統計力学では、 ミクロカノニカル・アンサンブル (エネルギー、粒子数一定の下で等重率の原理に基づく)、 カノニカル・アンサンブル(熱浴と接触した系)、 グランドカノニカル・アンサンブル(熱浴、粒子浴と接触) のような方法があるが、 Eq. (1)のような系の場合、 カノニカル・アンサンブルとして扱うのが適している。

カノニカル・アンサンブルでは、系の物理量$A$に関する統計 力学的平均値 $\langle A \rangle$ は、アンサンブル平均、

\begin{displaymath}
\langle A \rangle =
\frac{1}{Z} \mbox{Tr}( A e^{-\beta H[\phi]} )
\end{displaymath} (2)

によって与えられる。 ここで $\beta=1/k_B T$, $k_B$ は Boltzmann 定数、$T$は温度。 $\mbox{Tr}$ の演算は、系の自由度のすべての場合についての和を とることを表す。 系の自由度の値を1セット定めたものを、系の配位とよぶ。 $\mbox{Tr}$ 演算は、系のすべての配位について和を取ることを 意味している。 $Z[K]$ は分配関数と呼ばれる量で、
\begin{displaymath}
Z[K] = \mbox{Tr}\, e^{-\beta H[\phi;K]}
\end{displaymath} (3)

で与えられる。 系の熱力学的性質は自由エネルギー$F$によって記述されるが、 これは分配関数によって次のように表される。
\begin{displaymath}
F[K] = - k_BT \log Z[K]
\end{displaymath} (4)

$Z[K]$$K$ の関数として求めることが出来れば、 自由エネルギーを求めることが出来、従って種々の熱力学量 を求めることができる。 例えば、

磁化

\begin{displaymath}
M = -\frac{1}{V} \frac{\partial F}{\partial H}
= \frac{1}{V} \langle \phi \rangle
\end{displaymath} (5)

比熱

\begin{displaymath}
C = \frac{T}{V} \frac{\partial S}{\partial T}
= - \frac{T}...
...{V} \left[
\langle E^2 \rangle - \langle E \rangle^2 \right]
\end{displaymath} (6)

等温磁化率

\begin{displaymath}
\chi_T = \frac{\partial M}{\partial H}
= - T \frac{1}{V} \...
...\left[ \langle \phi^2 \rangle - \langle \phi \rangle^2 \right]
\end{displaymath} (7)

ここで、$E=H[S]$は系のエネルギー、 $\phi=\sum_i \phi_i$ である。

これらの熱力学関数に加えて、相関関数という量が重要である。 これは、系の自由度同士の相関が距離に従ってどのように変化 するかを表している。

\begin{displaymath}
G(r\,; K) = \langle \phi_i \phi_{i+r} \rangle
= \frac{1}{Z} \mbox{Tr}\left[ \phi_i \phi_{i+r} e^{-\beta H[\phi;K]} \right]
\end{displaymath} (8)

相関関数$G$が指数関数的に振る舞う場合、即ち $G(r)\propto \exp(-r/\xi)$と書ける場合、$\xi$を相関距離と呼ぶ。 相関関数が指数関数的かどうかは、熱力学極限が取れるためには 重要である。 相関関数が巾乗的に振る舞う( $G(r)\propto r^{-a}$)ような場合、 系の次元によっては、 熱力学極限で自由エネルギー密度が有限にならない場合がある。


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Hideo Matsufuru 2006-06-16