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転送行列

1 次元 Ising モデルは、転送行列の方法を使って解くことができる。 ($H=0$の場合には簡単に解く方法もあるが、重要な手法なので転送行列 を用いる。) $N$-自由度系を考え、周期的境界条件: $S_{N+1}=S_1$ とする。

\begin{displaymath}
Z_N(h,K) = \mbox{Tr}\exp\left[ h\sum_i S_i + K \sum_i S_i S_{i+1} \right]
\end{displaymath} (16)

ここで、$K=J/k_BT$$h=H/k_BT$。 因子の積で表すと、
\begin{displaymath}
Z_N(h,K) = \sum_{S_1} \sum_{S_2} \cdots \sum_{S_N}
[ e^{ \...
...S_2 S_3 } ] \cdots
[ e^{ \frac{h}{2}(S_N+S_1) + K S_N S_1 } ]
\end{displaymath} (17)

ここで、それぞれの項を、行列の要素とみなす。 例えば、
\begin{displaymath}
T_{S_1 S_2} = [ e^{ \frac{h}{2}(S_1+S_2) + K S_1 S_2 } ]
\end{displaymath} (18)

即ち、$S_1$$S_2$が次のような行列${\cal T}$のラベルであると解釈する。
\begin{displaymath}
{\cal T}
= \left( \begin{array}{cc}
T_{1,1} & T_{1,-1} \\...
...
e^{h+K} & e^{-K} \\
e^{-K} & e^{-h+K}
\end{array} \right)
\end{displaymath} (19)

このとき、
\begin{displaymath}
{\cal T} = S
\left( \begin{array}{cc}
\lambda_1 & 0 \\
0 & \lambda_2
\end{array} \right)
S^{-1}
\end{displaymath} (20)

と相似変換を行うことが出来る。 ここで、$\lambda_1$$\lambda_2$ は、${\cal T}$のふたつの 固有値とし、 $\lambda_1 \geq \lambda_2$ とする。 これらは容易に次のように求まる。
\begin{displaymath}
\lambda_{1,2} = e^K \left[ \cosh(h) \pm \sqrt{ \sinh^2(h)+e^{-4K} }
\right]
\end{displaymath} (21)

従って分配関数は、
$\displaystyle Z_N(h,K)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{S_1} \sum_{S_2} \cdots \sum_{S_N}
T_{S_1 S_2} T_{S_2 S_3} \cdots T_{S_N S_1}$ (22)
  $\textstyle =$ $\displaystyle \mbox{Tr}[{\cal T}^N] = \lambda_1^N + \lambda_2^N$ (23)

これより、自由エネルギー密度は、 $N\rightarrow \infty$ の極限で、
$\displaystyle f \equiv \frac{F}{N}$ $\textstyle =$ $\displaystyle - \frac{k_BT}{N} \log Z_N[h,K]$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle -J - \frac{k_BT}{N}
\log \{ \lambda_1^N (1 + (\lambda_2/\lambda_1)^N) \}$ (24)
  $\textstyle \rightarrow$ $\displaystyle -J - k_BT \log\left[\cosh(h) + \sqrt{ \sinh^2(h)+e^{-4K}}
\right]$ (25)

となる。


$T>0$ では、実の $h$$K$に対して $f$ は解析的、 即ち相転移は存在しない。 非解析的になるのは、2乗根の中がゼロとなり、 $\lambda_1=\lambda_2$となる場合か、$\lambda_1 =0$となる場合 であるが、これは、次の Perron の定理によって斥けられる。


Perron-Frobenius の定理:
$N \times N$ 行列 $(N< \infty)$ $A$$A_{ij}>0$ (for all $i,j$) について、その最大の固有値は次の性質を持つ: (a) 実、正定値、(b) 非縮退、(c) $A_{ij}$ の解析的関数。


これによって、$T>0$ では相転移が起こらないことが結論づけられる。 これは、1次元の場合の特徴である。 1次元では転送行列は $2\times 2$ 行列であったが、 2次元以上の場合には、転送行列は熱力学極限では $\infty \times \infty$ の行列となり、Perron-Frobenius の定理は適用できない。


1次元で $T\rightarrow 0$、従って $K\rightarrow \infty$ の場合を考える。 この時、 $\lambda_1=e^K[\cosh(h)+\vert\sinh(h)\vert]=e^Ke^{\vert h\vert}$ であるので、

\begin{displaymath}
F=-N(J+\vert H\vert).
\end{displaymath} (26)

$T=0$では、$h$に対し、$h=0$$F$は非解析的。 磁化は、
\begin{displaymath}
M = - \frac{1}{N} \frac{\partial F}{\partial H}
= \left\{ ...
...box{for $H>0$} \\
-1 & \mbox{for $H<0$}
\end{array} \right.
\end{displaymath} (27)

まず、$H=0$の場合。 このとき、自由エネルギーは、

\begin{displaymath}
F=-k_BTN[K+\log(1+e^{-2K})]
\end{displaymath} (28)

内部エネルギー
\begin{displaymath}
E = -\frac{\partial}{\partial \beta} \log Z
= -NJ \tanh (\beta J)
\end{displaymath} (29)

比熱
\begin{displaymath}
C = -\frac{dE}{dT}
= - \frac{NJ^2}{k_BT^2} \mbox{sech}^2 (J/k_BT)
\end{displaymath} (30)

磁化
\begin{displaymath}
M = -\frac{1}{N}
\frac{\partial F}{\partial H}
= \frac{\sinh h}{\sinh^2 h + w^2}
\end{displaymath} (31)

とそれぞれなる。 ここで、$w=e^{-4K}$ は、すべて上(あるいは下)向きのスピンの 配位に対して、ひとつのスピンだけがフリップした状態の 相対確率に対応する。 等温磁化率 $\chi_T$ は次の式で定義される。
\begin{displaymath}
\chi_T \equiv \frac{\partial M}{\partial H}
\end{displaymath} (32)

$h$ が小さい時、 $\sinh h\simeq h$ より、
\begin{displaymath}
M\simeq e^{2K} \frac{H}{k_BT}
\end{displaymath} (33)

この近似の時、磁化率 $\chi_T$ は、
\begin{displaymath}
\chi_T = \frac{e^{2J/k_BT}}{k_BT}
\end{displaymath} (34)

高温と低温での極限では、
\begin{displaymath}
\chi_T =
\simeq \left\{ \begin{array}{ll}
1/k_BT & \mbox...
...BT} }{k_BT} & \mbox{as $T \rightarrow 0$}
\end{array} \right.
\end{displaymath} (35)



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Hideo Matsufuru 2006-06-16